2017年03月15日

鯛焼きは天然物にかぎる

鯛焼きは天然物にかぎる

 「たい焼きは、しっぽまで餡が入っているのが美味しい」と四谷の作家安藤鶴夫が新聞紙上で発言したところから、論争になった。いやたい焼きのしっぽは、指でつまんで食べるための持ち手であり、最後に棄ててしまうものだから、餡の入ってないのが正しい。そんな反論まで飛び出したが、たい焼きを愛する庶民の立場からは、やっぱり尻尾まで餡が入っていたほうが、嬉しいし得した気分にもなる。

 四谷のアンツルさんのいったたい焼きは、四谷見附にある「わかば」のたい焼きのことだ。それまでたい焼きは麻布十番の浪花家だとか、人形町の柳屋だといっていたが、安藤鶴夫の発言以来すっかり「わかば」のたい焼きは名品となった。わかばのそれはガツンとあんこ、パリパリ薄皮の天然物であり、なによりも化粧裁ちがしっかりとしてあった。
 女優佐久間良子さんの差入れはいつも「わかば」のたい焼きが粋な竹籠に100匹程もはいっていた。徹夜で働いて甘味不足のスタジオの若者たちにとって、尻尾まで餡のつまった「わかば」のたい焼きはなによりの差入れだった。

 あの頃ドラマ収録の現場での差入れ人気ベストテンは、「おつな寿司のいなり」「五十番の豚まん」「まい泉のかつサンド」「千疋屋のフルーツサンド」などだっが、「わかばのたい焼き」は断トツの人気だったような気がする。

 麻布の浪花家は、子門真人の「およげ、タイヤキクン」のモデルになったことから有名になったが、その昔は元祖とも100年の伝統ともいってなかった。麻布十番のちいさな駄餅やさんの一隅でささやかに焼いていた。
 たい焼きには、鉄の焼き型一本一本で焼く天然物と、複数同時に焼く養殖物の二種類ある。ずらりと炭火の上に並んだ一丁焼きの鋳物同志がひっくり返すたびごとにぶつかる音の風情がたまらないという人もいる。
 高村光太郎の一文から、吉本隆明は「たい焼きは男のせつなさの象徴である」とまでいったが、良き時代のノスタルジックなスイーツなのかもしれない。

 近頃では餡を入れずに、ベーコン、チーズ、チョコレートなど具材にした新製品やら、パンケーキミックスをつかったふわふわとやわらかいたい焼きも存在するようだが、あれはたい焼きと呼んではいけない。ほかほか、ぱりぱり、もちもち、こしのある餡と香りこそが江戸のたい焼きと認識している。
posted by Kazuhiko Hoshino at 14:35| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする