2017年08月04日

外氏即興人形劇場との別れ

外氏即興人形劇場との別れ

 パリから北東へ200キロ余り、ベルギー國境に近く人口5万人ばかりのシャルルヴィル・メジェールという町がある。白鳥が遊ぶムーズ河に面し、町の建物はすべて3階建て以下の落ち着いたフランスの地方都市である。この町で三年に一度世界一のまつりが開かれる。国際人形劇フェスティバルである。9月下旬の10日間、広場も通りも裏街も劇場もみな人形劇場になる。
 ロシアから、北欧から、イギリスから、オランダから、アメリカから、最高レベルの人形劇団が集まる。日本から文楽もいったことあるし、人形劇団プークもいった。
 旧友水田外氏から電話がかかってきた。「実はシャルルヴィル・メジェールに行くことになった。新美南吉の「ごんぎつね」を持って行こうと思う。ついては英語版ごんぎつねを創ってほしい」という依頼だつた。町はバブルにうかれていた。

 外氏との付き合いはそのずつと前から。若かりし頃のデビ・スカルノ夫人がいた赤坂のナイトクラブ、ニュー・ラテンコーターや、ヌード・ショウのメッカ日劇ミュージック・ホールの舞台でのこと。プークを脱退して独立した水田外氏は、子供のための人形劇にあきたらず、大人の鑑賞に耐え得る人形劇をめざしていた。
 風刺の視点を上げ、子供だましではない人間描写と正面から向かい合ってショウ・アップしたいから手伝ってくれ、というのだ。猫の動きにたくしたエロティックな作品など、大人はニヤリとみてくれたが、演者のほうにそうしたエロティシズムを理解する俳優が少なく、結局学校まわりの道徳的人形劇に堕してしまった。

 モスクワに「オブラスツォフ記念中央人形劇場」という最高の劇団がある。イブ・モンタンもソフィア・ローレンもガンジーもファンだった。劇団の上演演目は、子供向け、青少年向け、大人向け、と三つに別れている。
 大人向けには、モーツアルト「魔笛」、ドン・ジュアンは76歳、プーシキン「スペードの女王」、ビゼー「カルメン」、「神聖喜劇」、チチコフとその劇団のための音楽会など、ユニークな演目が並び、客席はエロと笑いで抱腹絶倒という経験もした。
 水田外史のめざしたのも、そのあたりにあったように思う。

 何年振りに外史即興人形劇場から招待状がとどいた。外史の死後17年頑張ってきたが、今年いつぱいでフィナーレにするので見に来てくれ、という趣旨だった。
 かって外氏が演じていたゴンギツネは、愛弟子の中嶋咲枝が見事に受け継ぎ、吉永淳一のリリックな演出もそのままに、立派な舞台を見せてくれた。
 それにもまして文化交流館浅科の立派なこと、軽井沢にはまつたくない鄙稀に見る中劇場でのお別れ公演だつた。
posted by Kazuhiko Hoshino at 20:06| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする