2019年11月02日

諏訪内晶子のいま

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 学生時代、女神といえば映画スターでもなければ、新劇女優でもなかった。
 ミューズはクラシックのヴァイオリン奏者と決まっていた。それ故、第二次世界大戦の戦乱を潜り抜け、ドイツの英雄ゲッペルスから名器ストラドバリウスを贈られた伝説の美少女「諏訪根自子」は絶対的ミューズだった。凛とした美貌に溢れる清冽な空気は、演奏まえのステージに充ち、ヴァイオリンをかまえたとき、その佇まいの美しさに胸をしめつけられた。
 そしてもうひとり、男眉のキリッとした「巌本真理」がいた。戦後の廃墟に立ち向かうかのような巌本メリーエステルもまたミューズにふさわしい知性と美貌を供え、犯しがたい雰囲気があった。

 その後数多くのヴァイオリニストが輩出したが、どれもこれも中途半端で心を揺さぶられなかった。器用に弾きこなすだけで心ゆさぶられる世界が聴こえてこない。いみじくもフランスの大統領が評したソニーのトランジスターのような演奏ばかりなのだ。

 久しぶりに感動したのが「諏訪内晶子」だった。チャイコフスキー記念音楽コンクールに最年少で優勝したにもかかわらず、コロンビア大学で政治思想史を学び、音楽の言語化という課題に挑戦した。
 名指揮者シャルル・デュトアとの不倫騒動も彼女の人生観あってこそのアバンチュールであった。桐朋女子高、ジュリアード音楽院で学び、世界のコンクールで栄冠をかちとってきた彼女は、いまいろいろなことに煩わされることなく音楽と向かい合っているといっているが、果たしてそうだろうか。
 「国際音楽祭NIPPON」の芸術監督は、彼女の演奏にとってプラスなのかどうか疑問が残る。優れた演奏家である彼女がプロデューサーやマスタークラスの教育者になってしまっては、エネルギーを吸い取られてしまうのではないか。
 「ある程度、ストイックな生活をしなければ、いい演奏はできない」と断言する彼女の演奏に曇りが生じたら悲しい。東日本大震災のチャリティは後輩にまかせ、戦後日本最大の孤高のヴァイオリニストとしての完成を期待したい。
posted by Kazuhiko Hoshino at 17:38| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする