
街角に「氷」という四角い幡がひらめいていると、真夏の暑さのなかでホッとする。
「氷」という文字が涼しさを届けてくれる。その傍らで稚拙な絵のガラス風鈴が、チンチンとなってくれていたら申し分ない。 ビルの谷間の小さな楽園である。
「氷」の幡に対抗できる季節の景色は「冷やし中華始めました」。
冷やし中華意外にもいろいろなメニューがあるのだが、店頭に長い幡まで出して告知してもらえるのは、冷やし中華しかない。冷やし中華は特別待遇なのだ。調理面からいえばこんなに簡単なメニューはなく、プロの手を煩わせることなく素人のバイトのおばちゃんにもできてしまう。
少し固めにゆで上がった麺を皿にもり、ハムまたはチァシュウの千切り、錦糸卵、きゅうりの細切りなどをもり、頂上に紅生姜を載せて、だし汁を掛ければ出来上がり、真夏の麺料理として日本中で食べられている。練りからしを添えるのが定番だが、最近ではマヨネーズを添えるむきもある。
祇園町では八坂神社のしるしと同じなので、きゅうりの乗った冷やし中華はたべない。
北海道では冷やしラーメンと呼ぶ。岩手では冷風麺、関西は概して冷麺だが、韓国の冷麺と区別するため中華風冷麺と呼ぶ。韓国では中国冷麺、中国では日式冷麺となる。
上海で食べられていた、もやしと細切り肉を冷やした麺にのせた涼袢麺と、日本のざるそばにヒントをえて、1933年神田神保町の揚子江菜館に始まったと伝えられる。