
ひさしぶりに秋の東京と向かい合った。
銀杏の黄葉の美しさに溢れていた。皇居のまえ、霞が関の辺り、神宮外苑どちらをむいても銀杏の黄葉が見事だった。
黄色い葉をとおして降り注ぐ秋の陽の光の束が、コンクリートの街を黄色にそめて、ほんとうに美しかった。
子供のころ、本郷東大のまえの西片町に住んでいた。
秋の終りの大風のあくる朝、決まってちいさな笊を手に校内の奥にある三四郎池にむかった。池の水面には銀杏の黄葉が溢れていた。
つよい匂いを避けながら黄色くそまった道のぎんなんを拾った。笊はたちまちいっぱいになり、嬉しさをかみしめながらふかふかの黄色い絨毯の帰り道を急いだ。
ぎんなんを割り、ちいさな鍋でいる火鉢のまわりが嬉しかった。焼いたぎんなんはちいさな秋のご馳走だった。
「鐘つけば 銀杏散るなり 建長寺」 夏目漱石
この元歌から正岡子規の有名句が生まれた。 「柿くえば鐘が鳴るなり 法隆寺」
いまでは子規の句が元句のようになつているが、親友漱石への畏敬から生まれた句ときけば子規の漱石への傾斜が伺える。